神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「その者がゼラキエルなのでしょう!?
私も貴方と戦う!!結界を解きなさい!!これは命令です!!」
「それはできません!いくら貴女の命でも、それを聞くわけにはいきませぬ!
ウィルト!早く姫を外へ!!」
 スターレットのいつになく鋭い言葉が、焦った様子でリーヤの後方に走り込んできたウィルタール・グレイに言った。
「殿下!!駄目です!!早くこちらへ!!」
 ウィルタールが叫ぶように言って、彼女に手を伸ばしかけた時だった。
 突然、眼前の空間がぐにゃりと歪んだのである。
「あぁっ!?」
 ウィルタールが、驚愕して青い両眼を見開いた時、その視界の中で、黒い炎と共にゆらりと黒く長い巻き髪がその場にたなびいた。
『【鍵】は、このエルフェリナが申し受けまする・・・・ゼラキエル様』
古の言語を紡いだその声は明らかに女の声である。
 その額に刻まれた黒き炎の紋章。 
紅い唇でニヤリと笑う魔性の女が、白い頬にのたうつ黒髪を張り付かせ、その冷たい藍色の瞳で驚愕に動きを止めたウィルタールを見つめすえている。
「お、お前は!あの時の!?」
 ウィルタールの脳裏に急速に蘇ってくる、あのレッド・ポセイドンでの出来事。
ラグナ・ゼラキエルの墓を暴き、闇に眠っていたその呪われた魂を持ち去った女妖エルフェリナ、その魔物が今眼前に現れたのである。
 かつて、幽幻六部衆と呼ばれ、400年前にもゼラキエルに仕えていたとされる、元は人であったはずの魔物。
 エルフェリナはその幽幻六部衆の中の一人であり、古の呪いに従い、ゼラキエルの呪われた魂を憑(よりまし)に宿して、彼を呼び起こした張本人である。
 闇の魔物の白くしなやかな指先が、余りの驚きと、年若いが故(ゆえ)に沸き上がった恐怖で身をこわばらせたウィルタールの額に差し伸ばされた。
『ロータスに付く小僧、そなたにも闇の呪いを与えてやろう、そして、【鍵】もろともリタ・メタリカを破壊し尽くすがいい』
 女妖の唇が、そのあどけない顔を引きつらせたまま、何をも出来ずにいるウィルタールに不気味に笑いかけた。
「ウィルト!!」
 それを目の当たりにしたリーヤが、疾風の壁の中で彼の名を叫んだ。
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