神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 刹那、そんな彼女の眼前を、煌々(こうこう)と燃え盛る紅い炎を纏った火蜥蜴(ひとかげ)の影が、炎の断片を撒き散らしながら、轟音と共に女妖エルフェリナに向かって空を走ったのである。
『!?』
 その灼熱の気配に、女妖は藍の瞳を爛と閃かせて迫り来た火蜥蜴に向かって片手をかざすが、既に遅い。
『ぎゃあああああ―――――っ!!』
 悲鳴と共に、その腕が肩まで灼熱の炎を宿す火蜥蜴の影に飲み込まれ、煌(きらめ)く金色の火の粉と共に虚空に弾け飛んだのだった。
「おい!スターレット!リタ・メタリカの王宮には、お前以外に役に立つ魔法使いはいないのか!?」
 どこか怒ったようにそう言うと、火蜥蜴の精霊を放った主である魔法剣士ジェスターは、燃え盛る炎のような美しい緑玉の両眼を、呆然とするウィルタールと、そして、決して解かれることのない疾風の壁の中で、驚愕しているリーヤの方へ向けた。
 そしてそのまま、金色の大剣を振りかざし、俊足で、苦痛にその白い顔を歪めたエルフェリナの前に踊り出たのである。
「すまないジェスター!姫とウィルトを頼む!!」
 背後を振り返らずに叫んだスターレットに、再び黒炎の獅子が牙を剥く。
 その言葉が終わるか終わらないかの内に、ジェスターのしなやかな手首が迅速で翻り、苦悶する女妖を薙ぎ払わんと発光する金色の刃が虚空に閃光の帯を引いた。
『いちいち邪魔なんだよ!使い魔が!』
 どこか凶暴に煌いた美しい緑玉の眼差しが、何故か、薄い笑みを浮かべているのを、エルフェリナの藍の瞳は見逃さない。
『おのれ!アーシェの一族でありながら!ゼラキエル様に歯向かう不貞の輩(やから)が!!』
 鋭利な金色の弧を伴い豪速でまかり来たその刃を寸前でかわし、片腕を失ったエルフェリナの体が宙に踊る。
 黒い炎がその肢体を包み込むと、藍の両眼が禍々しくカッと発光した。
王宮を支配する闇の中に、黒い炎を纏った無数の閃光の矢が出現し、それは虚空を引き裂いて一気にジェスターへと飛来してくる。
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