神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 しかし、彼は何故か、実に不敵な薄い笑みをその唇に浮かべただけで、結界を張る様子も、もちろん逃げる様子もなく、ただ、金色の大剣の先を床に向けたのだった。
『馬鹿かお前は?俺を誰だと思ってる?たかが使い魔の術が、この俺に通じる訳ねぇだろ・・・・』
 びゅうんと空を薙いだ無数の閃光の矢が、不敵に笑う彼の見事な栗毛を揺らして、その全身を掠めていく。
 だが、その体に微塵の傷すら残せぬまま、それはまるで打ち消されていくように次々と闇に消えてしまうのだった。
『おのれ!!裏切り者が!!』
 悔しそうに歪んだ女妖の眼前で、ジェスターの持つ金色の大剣が眩いばかりの激しい閃光を放った。
『たかが使い魔如きに、裏切り者呼ばわりされる謂(いわ)れはない!アクス・エリヤード(紅い閃光の矢)!!』
 古の呪文を紡いだジェスターの爪先が、俊足で床を蹴った。
 爛々と輝く鋭利な緑玉の瞳に、炎のような激しい輝きが灯る。
 彼が手にする妖剣アクトレイドス特有の呪文であるこの術は、刃が捕らえた相手を結界ごと一気に切り裂く半ば荒業たる術であった。
 大きく脈打つ金色の大剣が纏う、炎のような赤い輝き。
 その鋭利な炎の斬撃(ざんげき)が、高く跳躍(ちょうやく)した彼の手から豪速で放たれる。
 闇を切り裂く赤い炎の弧が、女妖の体を取り囲んだ黒炎の結界を切り裂いて、驚愕に藍の両眼を見開いたエルフェリナの脳天を、一瞬にして捕らえた。
『もう逃げられないぜ・・・・・・お前の行き先は、地獄だ』
『アーシェ一族の恥があぁぁぁ!ぎゃあああああ――――!!』
 断末魔の叫びを上げたエルフェリナの顔が奇妙な形に歪む。
 燃え盛る炎の赤い斬撃が、血飛沫すら上げぬ女妖の頭から体を一気に切り下ろしたのである。
ほとばしる赤い閃光が闇を裂く。
 炎の斬撃はエルフェリナの体を真二つに両断すると、ゼラキエルの使い魔たる女妖は白い煙を上げながら床の上へと落下していった。
 野を駈ける獣のようにしなやかなジェスターの肢体が、まるで何事もなかったかのように床の上へと着地する。
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