神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「なんなのです!?あの者は!!?」
「申し訳ございません!!ジェスター様は、あれでもひどくお強い術者でして・・・・というか、殿下!早くこの場を離れましょう!!」
「離しなさい!ウィルタール!!私は、守られてばかりなど嫌です!!」
 怒り心頭のリーヤを引きずるようにして、ウィルタールが必死で王宮を離れようとするが、彼女は頑として聞かず、むしろその手を振り払わんと、やけに怖い顔つきで、狼狽する彼を睨みつける。
 その時、ふと、てこずるウィルタールの前に誰かが立った。
ハッとして目を上げると、そこに立っていた人物に、彼はまたしても度肝を抜かれたのである。
「なぁ!!?どどどど、どうして貴女がここに!?」
 何やら愉快そうな顔つきをしてそこに立っていたのは、広い額に赤い布を巻き、艶やかで美しい赤毛の髪を揺らした異国の美麗な女剣士、ラレンシェイ・ラージェ、その人だったのである。
 彼女は、無言のまま、何を思ったか、半ば暴れるようにウィルタールの手を振り払わんとした リタ・メタリカの姫の肩を掴んだ。
 リタ・メタリカの姫君は、綺麗な眉をつり上げてハッとそちらを振り返る。
 その視界に飛び込んでくる、見ず知らずの女剣士の美麗な顔。
「これは!私がリタ・メタリカの姫と知っての狼藉(ろうぜき)ですか!?」
「無礼は承知の上にございます、内親王殿下」
 異国の女剣士ラレンシェイが艶(あで)やかに微笑んでそう言った、次の瞬間。
 リーヤのみぞおち辺りに鋭い衝撃が走り、その瞳を大きく見開くと、その意識が急速に遠のいていったのである・・・
 なんとラレンシェイは、一国の姫君に対して思い切りその拳で腹を突き、その意識を失わせてしまったのだ。
「うわぁ!!何をするんですか貴女は!?」
 殊更激しく狼狽して、そんな叫びを上げたウィルタールの眼前で、ラレンシェイは完全に意識を失ったリーヤの体を、軽々とその肩に担ぎあげたのだった。
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