神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「じゃじゃ馬を馴らすにはこれしかあるまい?急げ、魔物になど取り囲まれたらたまらぬからな」
 なにやら愉快そうにそう言って、彼女は、リーヤの体を抱きかかえたまま、王宮の扉を蹴破って外へと走り出したのである。
 その後ろを、慌てた様子でウィルタールが追いかけて行く。
「この国の近衛兵は平和ボケしておるな、皆、魔物の餌食になりおったわ。
城の魔法使いは皆てんてこ舞いの様だし・・・・今、階下では私の部下達が魔物を退治しているところだ、魔法使いならおぬしも少し手を貸せ」
「なんですって!?他にも城に潜入していたアストラがいるんですか!?」
 驚いたように両眼を見開いたウィルタールと、リーヤを抱えたラレンシェイの足音が次第に王宮から遠ざかっていく。

 
 だが、まんまと逃げおうせようとする【破滅の鍵】に気付かぬほど、闇の魔王は鈍感ではない。
 先程から、蒼き閃光を伴い空を切り裂いてくる烈風の刃を、黒い炎で弾き返しながら、その冷酷な両眼がちらり遠ざかる足音の方へと向いた。
 その視線に、旋風を纏った大魔法使いスターレットが、苦々しくその紅玉の両眼を細める。
「追わせない!!『行け 其は気高き刃なり ル・デルファード(烈風斬)』」
 蒼き輝きを纏う旋風が、闇に支配された王宮に轟音を轟かせた。
 巻き上がる激しい暴風に三日月型の青白い刃が無数に漂う。
 旋風の刃は高い音を伴って、魔王ゼラキエルの肢体を千々に薙ぎ払おうとそのまま一気に、彼へと向かって解き放たれた。
「・・・・・小ざかしいわ」
 取り囲む黒炎に揺れる藍の前髪の下で、忌々しそうに緑玉の瞳を歪めると、ゼラキエルの右手に、激しい閃光を放つ光の球体が沸き上がった。
 そんな彼の背後に、不意に金色の刃が閃光の如く閃く。
「どこ見てんだよ?お前、今、二人の術者を相手にしてるんだぜ?」
 自分と同じ燃え盛るような緑玉の瞳が、爛々と輝きながら、一瞬、その視界を横切っていく。
 鋭い金属音がこだまして、ゼラキエルの左手が魔法剣士ジェスターの放ったアクトレイドスの斬撃を寸前で止めた。
< 28 / 198 >

この作品をシェア

pagetop