神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
そなたの相手も、ロータスの相手も、後でゆるりとしてやろう」
 金色の刃を握ったゼラキエルの手から、ぶわりと紅蓮の炎が湧き上がる。
 右手が放つ閃光の球体が、次第に膨張しながら旋風の青白い刃を飲み込みスターレットに向かって豪速で放たれる、左手に満たされた紅蓮の炎がそのままアクトレイドスの刃を伝いジェスターの腕に絡み付いた。
 アクトレイドスを握る腕を鋭く薙いだ、焼け付くようなその痛みに、ジェスターは端正な顔を僅かに歪めてチッと舌打ちすると、思い切りゼラキエルの手から金色の刃を引き抜き、そのしなやかな肢体を翻して床の上に着地した。
 ゼラキエルの左手から、暗い闇に弾け飛ぶ紅の鮮血。
 魔物が持つはずのない赤い血が、まだ、この魔王の体内には残っている・・・・。
 それは、ゼラキエルの呪われた魂と憑(よりまし)たる者が、まだ完全に同化しきっていない証拠でもあった。
 それに気が付いて、緑玉の両眼を僅かに細めたジェスターの視界の隅で、スターレットの元へと届いた膨大な閃光の球体が、轟音と共に彼の姿を飲み込んでいったのである。
「スターレット!?」
 闇に満たされた王宮の只中に眩い閃光がほと走った時、その余りの眩さに、ジェスターは、一瞬、アクトレイドスを握ったままの傷ついた腕で自分の顔をかばった。
 膨れ上がった閃光が虚空に伸び上がり破裂するように砕け、その輝きがゆるやかに消えて行った時、彼は鋭い視線をゼラキエルのいた場所に向ける。
しかし、魔王の姿は既にそこにはない。
「あの野郎・・・・っ!」
 傷を負った腕をかばうでもなく、苦々しくそう呟くと、ハッと広い肩を揺らし、あの輝きの中に飲み込まれただろうスターレットの方へとその緑玉の視線を移したのである。
「おい!スターレット!大丈夫か!?」
 輝くような蒼銀の髪がゆるやかに揺れて、床に片膝を付いた姿勢の彼が、苦々しく雅な顔を歪めてゆっくりとジェスターを振り返る。
 その深紅に輝く紅玉の瞳が、いつになく悔しそうに細められていた。
「私は大丈夫だ。流石・・・魔王と呼ばれた者だけのことはある、この大魔法使い(ラージ・ウァスラム)の術をそのまま跳ね返して来た・・・」
 そんな彼の元に歩み行きながら、ジェスターは低めた声で答えて言う。
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