全てを愛して

凌「・・目で会話しちゃうなんて、本当恐れ入りますよ。」

瞬「いろんなアーティストさんとお仕事させていただくいただいてますけど、THREEDAYSさん程仲が良くて、図面に文句言う人いませんよ。」

猛「最後のは褒められてないね。」

凌「まさか!!誉め言葉ですよ??それだけ毎回真剣にコンサートされてるってことですから。こんなやりがいのある仕事はありませんよ・・・・・先程は失礼な態度をとり申し訳ありませんでした。」

二人は立ち上がり、頭を深々と下げてきた

猛「大丈夫だよ・・・二人は心愛を大事にしてるからこそだよね??わかってる・・・だからさ、教えてほしいんだ。彼女のこと・・・」

凌「・・・あいつは何も話してないんですね・・・」

猛「出逢ってまだ4ヶ月だけど、連絡は毎日とってるんだよ??それでも・・・踏み込むことを許してくれない・・・いや、怖がってるのかな・・・ご両親が亡くなったことと親戚の人に育てられたことは聞いてた。でも理由とか、深くは話してくれないんだ・・・・本当はね・・・彼女と付き合いたいよ。でも彼女の気持ちを無視するわけにもいかないし・・・待つことに決めたんだよ。」

好きな気持ちは変わらない。

お互いを大事に想い、言葉に出さないが、それでも壁を感じる。

その壁を叩き壊したくて仕方なかった。

会えばいつも笑ってくれるし、喜んでくれる。

それでもふとした瞬間に、消えてしまいそうな儚さを感じ、いつもそれが怖くて仕方ない。

甘えてほしい、泣いてほしい、弱い部分まで全てを見たい。

それで安心したい・・・

これは俺のエゴだ。

凌「心愛が貴方を見つめる眼差しは・・・はたから見てもとても優しいし・・・愛情に溢れてますね・・・その眼差しは前によく見たことがある・・・以前、あいつはある歌手と付き合っていました。それはご存知でしたか??」

猛「聞いたよ・・・名前は知らないけど。」

凌「・・・・あいつを見る眼差しに・・・似てた。心愛は貴方を本気で好きなんですね・・・でも前に進めていない。」

谷「その件ですが・・・どのように調べても、その歌手の情報だけ出てきません。いったい何があったのでしょうか??初めて心愛ちゃんに会ったとき、声をかけた私を猛さんのマネージャーだとすぐわかったようでした。ということは、彼女は相手のマネージャーに別れるよう言われたということですか??」

瞬「それだけだったら・・・・どんなによかったか・・・」

二人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

凌「・・・俺ら三人は幼馴染みですけど、本当はもう一人いたんですよ。西園寺優真っていう奴が。」

谷「・・・西園寺優真・・・聞いたことがある名前ですね・・・あぁ、3年前くらいに出てきたバンドのドラマーですね??えっと・・・確か"Heart lover"でしたかね。何回も共演しています。しかし、あのバンドはあまり良い噂がありませんね。」

猛「あぁ、確かデビューも・・・プロデューサーに女を売ったとか・・そんな噂があったな。」

瞬「噂じゃない・・・事実ですよ・・・」

猛「え??」

凌「その話をするにはまず親戚の話をしなきゃいけないな・・・・・心愛は両親を亡くしてから・・・親戚の叔父に引き取られたんですけど・・・その男が・・・心愛を虐待していたんです。」

猛「虐待!?」

凌「えぇ・・・俺らと優真は同級生なんですけど、当時俺らは中学生で、何をしてやれることもなかった。こっそりと飯を渡したり、怪我を治療してやるしかできなかった。俺らの両親に言っても、相手にうまい具合に虐待は隠され警察沙汰になることもなかった・・・民事不介入っていうらしいです。心愛本人も・・・助けを求めることはなかった。」

猛「どうして・・・」

凌「・・・痛め付けられることが・・・ごはんを食べないことが・・・両親に対しての償いだと思っていたんです・・・俺らは何度も説得しました。それでも納得しなかった。私のせいでママとパパは死んじゃったんだって・・・だからその罪は償わなきゃいけないって・・・7歳の子がそんなこと言うなんてありえないでしょう・・・きっと男に言われ続けていたんだと思います。」

瞬「それでも心愛がちゃんと生きてきたのは他でもない、優真の言葉があったからなんです。」

二人は懐かしんでいるのか、穏やかな顔をしていた

凌「俺らは妹みたいに思ってましたけど、優真だけが違いました。あんな幼い心愛に・・・大きくなったら嫁さんにしてやるから、今が辛くても幸せにしてやるから頑張れ・・・そう言ったんです。」

瞬「心愛も優真のことを別の意味で慕ってましたから・・・本当に頑張って過ごしました・・・15歳になり、男が心愛を追い出して独り暮らしを始める時も、俺らには手出しさせずに優真が部屋を借りてやって、生活面で面倒を見てやってました。俺らは大学生でしたけど、優真は進学しないでアルバイトを掛け持ちしてそれに加えてバンド活動もして・・・その時期に二人は付き合い始めて・・・必死に心愛を支えようとしていました。」

凌「・・・心愛自身もアルバイトの掛け持ちをしながら、ライブハウスで活動する優真を一生懸命手伝っていたんです・・・でもそれが仇となった・・・」

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