全てを愛して
何時に終わるかはわからないけど、とりあえずスタジオ付近にやってきた。
焼肉って言ってたし、お腹を締め付けないワンピースにした。
髪の毛は後ろでまとめて、軽くメイクアップ、首もとが少し寂しいから、幼馴染達にプレゼントされたお気に入りのハートのネックレスを付けて、寒いからファー付きのダッフルコートを選んだ。
なんか・・・
ちょっと気合い入ってる感じに見えちゃうかな・・・
そんなつもりないんだけど・・・
「それにしても・・・寒いなー・・・」
ピリリリリ
「もしもし??」
[心愛ちゃん??終わったよ。そういえば時間言ってなかったよね、あれなら迎えに行くよ??」
「大丈夫です、もう付近にいますから。」
[えっ、いつから!?こんな寒いのにどこかお店入ってる??]
「いえ、あの・・・」
「おねーさん、一人??」
「えっ・・」
「俺と一緒に良いところ行かない??」
男が肩を寄せてきた。
「わっ・・ちょっ・・」
[心愛ちゃんどうした??大丈夫??]
「いえ、あの・・」
「おねーさん電話してないで俺と行こうよ。」
[・・・心愛ちゃん・・・すぐ迎えに行くから場所言って。着いてっちゃ駄目だよ??]
さっきより声が低いような・・・
「えっと・・・あんまり土地勘がなくて・・・大きな看板があって・・ってちょっと、私待ち合わせしてるので・・」
「いいからいいから!!」
「ちょっ・・・」
[・・・・・・・・・]
「本当待ち合わせしててっ・・・」
グイッ
猛「俺の女になんか用か??」
急に甘いムスクの香りに包まれた。
上を見てみると、眼鏡とマスク姿で、テレビで見るサングラスとオールバックではない。
髪をおろした桜木さんがいた。
バレないのかなって思ったけど、そういえば、桜木さんだけテレビでは絶対にサングラスだし、私もホテルで会ったときサングラスしてない素顔だったから全くわからなかった。
「チッ・・・男連れかよ!!」
知らない男が走り去って行った。
猛「ハァー・・・心愛ちゃん、大丈夫??」
「は・・はい・・・でも何で・・・」
いくらなんでも早すぎるんじゃ・・・
猛「スタジオ・・目の前だよ。大きな看板って言ったときにもしかしてと思ってさ。目の前で良かったよー・・・怪我・・してない??」
両手を握って、心配そうに顔を除き混む姿に、なんだか安心してしまった。
怖くはなかったけど、やはり知らない人に肩を抱かれいい気はしなかったし・・・
それに・・・
"俺の女になんか用か??"
ファンの子が聞いたら卒倒ものだ。
反則だと思います。
猛「えっ、どっか痛いの!?あいつ・・・」
黙ったままの私を勘違いして、先程の相手を探しに行こうとしたので
パシッ
思わず右手を掴んだ。
猛「!!」
「・・大丈夫です・・助けていただいてありがとうございました。それと・・・お仕事お疲れ様です。」
猛「・・・うん・・・心愛ちゃんも来てくれてありがとう・・・私服・・・可愛いね。似合ってるよ。」
向かい合ってよくよく見てみると、コートを着ないで薄着だ。
「!!」
私は慌てて自分のコートを脱いで彼に掛けた。
「風邪を引いては大変です!!お仕事に差し支えますから・・・」
猛「えっ!!いいよ心愛ちゃんが風邪引いちゃうし・・」
「私なんかが風邪引いたって誰も心配しませんから大丈夫ですよ。」
猛「・・・」
「・・・」
風邪を引いて・・・心配されたことなかったな・・・
猛「俺が・・・」
「え??」
猛「俺が心配するよ??だから・・・私なんかって言わないで??俺が心配だから、ね??」
心が温かい。
この人とは今日の午後初めて会ったのに。
たったの30分くらいしかいなかったのに。
初めて会った気がしないのは何でだろう。
少しだけ、心が軋む音がした。