全てを愛して

それからすぐ焼肉屋に移動した。


仕事が終わって一段落して心愛ちゃんに電話をかけると、外にいると言う。

電話越しで彼女が嫌がる声と知らない男の声。


腸が煮えくり返りそうだった。


猛「・・・心愛ちゃん・・・すぐ迎えに行くから場所言って。着いてっちゃ駄目だよ??」

俺はすぐ楽屋から飛び出した。

幸「あっ!!たーけーるー!!・・・あいつ上着忘れてるよ・・まぁいっか。」


大きな看板がある場所はいくらでもあるんだけど、確かこのスタジオの真ん前にもあったはずだ。

外に出ると、淡いピンクのダッフルコートを着た女とチャラそうなホスト風の男がいた。

見間違えるわけない。

心愛ちゃんだ!!

何も考えずに、引き離したくて思わず言ってしまった

猛「俺の女になんか用か??」

今思えば、彼女が引かなくて良かった。

俺の女もなにも、俺だって出会って 30分で飯の約束取り付けたただのナンパ野郎だ。

彼女を心配したけど、逆に風邪を引くと自分のコートを脱いで俺にかけた。

フワッと香水じゃない、柔軟剤の香りが俺を包み、これが彼女の香りなのかと心臓が高鳴った。

「私なんかが風邪引いたって誰も心配しませんから、大丈夫ですよ。」

私・・・なんか・・・

彼女は何を思っているのか、とても悲しそうな顔をしていた。

俺が心配すると伝えるととても綺麗な笑顔で笑ってくれた。



猛「・・・・にしても・・・」

メチャ食べるね心愛ちゃん・・・

「おいしー!!」

彼女は慣れているのか、サラダを取り分けたり、肉を焼いたり、飲み物を頼んだりしてくれているのだが、その合間にずっと食べてる。

俺が女と食事に行きたくない理由は、女が食べないからなんだけど・・・

すぐ残したり、まずいと文句を言ったり、少食だからと言って、明らかに女をアピールしてる感じが嫌いだった。

彼女はどうだろう。

普通に、いや多分普通より多く食べてるのか??

でもとても幸せそうに食べていて、見ていて気持ちが良いし、その中でも所作がしっかりしていて、こんな女性は初めてだ。

「・・・あれ??もう食べないんですか??」

猛「ううん、食べるけど、心愛ちゃんの食べっぷりが気持ちよくて・・美味しそうに食べるね。」

「すっ・・・すいません・・・食べるの好きで・・・」

猛「何で謝るの??食べたいだけ食べたら良いよ。でも、そんなに食べてその体型って凄いね。」

細過ぎてはいない、でも痩せている部類に入るだろう。

「普段は食べないからですかね。」

猛「食べないの??」

「はい、食べる時間ないくらい仕事が忙しくて、1日一食とかよくあるんです。それでよく幼馴染に怒られちゃうんですけど。」

猛「へぇ・・・なんの仕事してるの??」

「イベント会社で働いてるんですけど、桜木さんがよく知ってる仕事ですよ。」

猛「俺が??」

「主に、ライブの設営撤去をしてるんです。」

猛「えっ・・あんな力仕事してんの!?腰に工具とか巻き付けてる人達だよね??」

「はい、ヘルメットして、工具使って・・・歌手の皆さんが輝けるように舞台を作ってます。」

猛「女性がいたのは見たことないな・・・よくご両親反対しなかったね??あの仕事意外と危険もあるだろ??」


< 9 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop