女を思い出す時
「お願いがあるんだけど。」

夫の切羽詰まった表情に 思わず私はその
お願いを引き受けていた。

私にもこのクレームが大変な事なのはわかったし
夫が行けば収まることもわかっていたし
引き受けるしかなかった。

お迎えに行くと 保育士が出てきて

「真美ちゃんのおとうさんから
連絡もらっています。今用意してますから
待っててください。」

「はい。」

「真美ちゃん お迎えきたよ。」

保育士の声は 大きくてとてもとおる。


リュックを背負いながら 出てきた真美を
今も私は忘れない。

「よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げた。

「おとうさんお仕事で遅くなるので
今日は私が 頼まれて来たの。」

「ありがとうございます。」

五歳と聞いていたけど大人っぽい子だった。


小さな手は歩き出したらすぐに私の手を握った。

子供と手をつなぐなんて初めてだった。
なんだろう 不思議な責任感でいっぱいになる。

夫に言われたように 真美の好きな
回転ずしで夕食をとる。

「おねえちゃん たくさん食べてね。
今日はお礼に パパのおごりでしょ?」

「あ うん そうなの。」

「十枚くらい食べていいんだよ。
好きなの食べてね。」

五歳の女の子に 進められる回転ずし。


一万円 握らせて
これで回転ずしに連れて行って
腹いっぱい食べてきてと 夫は笑った。


真美と私の好物が同じですっかり
店を出るときには 打ち解けていた。


マンションに送って行って
夫が戻るまで 真美と一緒に待った。

部屋は綺麗に片付いていた。

「パパ お部屋綺麗にしてるのね。」

「そうだよ。真美もお手伝いするんだ。」

さすがだなって感心した。
仕事ができる人って何でも完璧なんだな。

髪の毛が揺れた。

「ん?」

「おねえちゃんの髪の毛素敵だね。」

胸まで伸びた髪の毛は
毎日カールをかかさなかった。

「真美 髪の毛長くしたいのに
パパが縛るのできないって言うから
いつもこんなに短くしちゃうんだよ。
みんなママがいるから いっつも可愛く
ここにリボンつけたり……真美も髪の毛伸ばしたいの。」

私の髪の毛を指でもてあそぶ姿が
とてもいじらしかった。
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