女を思い出す時
「篠塚さん。」

その名字に私は思わず足を止めた。

「今日午後から検査に入りますからもう少し
お食事とお飲み物は我慢しててくださいね。」

綺麗な女性が慌てて部屋に入ってきた。

「すみません!!ほら 聞いてるの?」

布団をはいだ音がした。

篠塚・・・・・・・
あこがれの名字だったな。
矢吹じゃなくて 篠塚 紀香って呼ばれたかった。


立ち去ろうとした時

「翔 子供じゃないんだから。」


え?翔?
その名前に 私は立ちすくんだ。


篠塚・・・・翔・・・・・?


その部屋に 戻りたい気持ちを必死に抑える。


いや同姓同名の人かもしれない。
慌てて 入って行って違う人なら
恥をかくから。

でも確かめたいその衝動を抑えられない。


「矢吹さん!!」

師長が私を呼んだ。
助かった・・・・・恥をかかないための・・・・
師長 感謝します・・・・・。


「あ はい・・・・。」

カートを押して 詰所の前まで行くと
師長がさっき 助手から聞いた事をまた説明しはじめた。

さっき聞きました。

今日はそんな気分だったけど
でも 浮足立った私を 止めてくれた感謝しないと。


「クリーンやめて 助手しない?
人手不足なのよね。
矢吹さんだったら 戦力になると思うんだけど。」

いつも誘われるスカウト話

「いえ 私なんて全然ダメですよ。
お掃除の仕事でもう 一杯一杯です。」


お菓子を持たされて 休憩室に戻る間も
さっきの同姓同名が気になって仕方がなかった。

どうせまたお掃除に入るし・・・・・
その時 チラッと確認したらいいのよね。

でももし 翔だったりしたら
翔だったら・・・・・あの綺麗な女の人は

奥さんかな 恋人かな・・・・・。

私たちも年を取ったから・・・・・・
翔は 私の中では あの頃のまま


「また 思い出しちゃった。」

悲しい初恋・・・・・・
今きっと 満たされないから現実逃避してるんだわ。


そう思って 頂いたお菓子を頬張った。

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