女を思い出す時
まさか・・・・・
まさかこんなところで翔と再会するなんて。

私の心はざわついている。
そして何度もトイレの鏡を見て
自分を確認する。

女だったって思い出した。

マスクをとって自分の顔を
まじまじと見る。


愛してた人と再会した。
一生会う事ができないって思ってたのに。

どうする
どうやって話かけるのか。

少しでもいいから翔と話しがしたかった。
あの事を謝りたかった。


私が翔の人生をめちゃめちゃにしたから。
私たちの歩くはずだった道は
一つだったかも知れないのに


カートを押して翔の病室に近づく。

ドキドキドキ
まるで少女のように胸が高鳴った。

お掃除のおばさんとして
翔に会うなんてそれも皮肉だけどね・・・・・。

飛び出そうな心臓を抑えて
震える息に大きく深呼吸する。


翔の部屋を静かに開けると
窓の外を見てる翔が振り返った。


そしてまた驚いた顔をした。

「ひさしぶりだね。」

翔はまた背中を向ける。

カートを押しながらベッドに近づいて
手を動かす。


「変わらないね。
ちょっと髪の毛ボサボサだけど・・・・。」

翔は言葉を発さなかった。

一通りの仕事の流れが終わって
私は翔の後ろに立った。


「翔・・・・。」


翔は吐き捨てるような大きなため息をついた。


「会いたかった。
まさか会えるなんて思ってなかった。」


その背中は細くて頼りなげで
患っていると 伝わってきた。


「話がしたいんだけど・・・・・。」
声が上ずる。

翔が拒否してるのは 伝わってくる。


「あの・・・・・
私のせいで翔の人生を・・・・・・
本当にごめんなさい。
今どうしてるの?幸せなの?」


「うん。
病気だけどじきよくなるだろうし・・・・
幸せにやってるよ。」

暗い声だった。

「そうなんだ。よかった。」


「嫁 戻ってくるから
もう声かけないでくれる?」


「あ・・・・そうだね。
ごめんなさい。」

心臓がギュッと縮まった。


やっぱりあの綺麗な人 奥さんだったのか。

私はそそくさと逃げ出した犬のように
部屋を後にした。

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