女を思い出す時
仕事をなんとかこなした。
頭の中はもう自分への情けなさと
支えにしてきた翔との思い出を失った様で
失望感で一杯になっていた。

夕飯の支度も考えるのが苦痛で
夫が飲みにでも行ってくれないかと
祈る様な気持ちになっていた。

まるで失恋でもしたようだ。


私の人生なんてもう捨てたようなものだったけど
翔との思い出だけは
誰にも傷つけられない大切な宝物だった。

それを思い出の当事者によって
拒否されてしまったそのショックは大きかった。


私がいい気になって
翔に近づいていってしまったから。


翔は今きっと幸せなんだろう。

その幸せを守りたい

だからそんな昔話で近付いてくる私は
迷惑だった それだけの話。


嫁か‥‥


若くて綺麗な女性だった。


感じもいいし翔にはお似合いだ。
こんなおばさんが今更

昔を懐かしんで近付いたところで迷惑でしかないもん。


仕事のルートはまだ半月
翔の病室が担当だ。


どんな顔して入っていったらいいの。


もう声なんてかけられない。


大きな溜息が出た。


「パパ迷惑だったみたい。」

お腹を静かに撫ぜる。

いつの間にか暗くなった部屋の中で
涙が溢れ出してきた。


翔との綺麗な思い出だけが
支えだった私の人生だった。

今日から何を支えにしていったらいいのか。


私と翔がきっと一緒に歩けたはずの人生があったはず。


どこでどう間違えたのかな。


ボサボサ頭で髭面で痩せた翔

貧しくても健全で賢くてあの笑顔から
かけ離れた翔の今だった。


それでも私は愛おしいと思った。


「今 幸せ?」ってもし翔に聞かれたら?
私はなんて答えるかな。


夕飯の支度しなきゃ


私の生きる場所は ここしかないものね。
幸せでなくても
私には夫しかいないんだ。


愛してなくても 
愛されてなくても ここが私の居場所だから。


立ち上がってキッチンに向かう。
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