女を思い出す時
会いたい 会いたい

仕事へ行く朝 とうとう初雪が降った。


「もう自転車ダメだぞ。」
夫がそう言って出かけて行った。

宿では 真美家族と一緒で
夫は真美たちの目を盗んで 私の体に触れてくる。


その手を私は黙って受け入れる。


家に帰ってきて夫はすぐに
私を求めてきた。


体中がおもだるくて
仕方がないくらいの疲労感だった。


夫は 性に目覚めた少年のように
若返ったように感じた。


そして私も・・・・・・


翔に会いたくて 翔の声が聞きたくて
バスに飛び乗る。


雪が綺麗だった。


「おはようございます。」

窓の光を浴びて 翔が輝いて見えた。

「雪 積もったね。」
翔が外を見ながら静かに言った。

「今日は起きてたんだね。」

「うん 寝てしまってた。」

「話するの楽しみにしてるから
寝る時間できればずらして欲しいな~。」

そう言ったら翔が笑った。

「俺 病人 
寝るの仕事だからな。」

「そうだった。」

顔を見合わせて笑う。

胸がキュンとして体が熱くなった。
その笑顔 全部私に下さい

そう言いたくなったのを必死に抑える。

「病名聞いてないけど
少し痩せた?」

「うん 少し具合悪くてさ。」


退院しちゃったらもう会えなくなるから
それまでに何とか翔をつないでおきたい。

「今日は立ち直った。」

「具合悪いんだからタバコはダメよ。
もう外もめっちゃ寒いからね。」

「あ・・・タバコのことも忘れてたな。」

伸び放題の髪の毛をかきむしった。


思わず私は近づいて髪の毛に触れた。

ドキン ドキン
胸の高鳴りが聞こえてしまいそうだった。

「昔 翔の前髪切ったよね。
切ってあげたいな。」

慌てて翔に話しかけて 仕事を始めた。

「そんなこともあったね。」

「覚えてた?」

「うん。」

枕回りに髪の毛がたくさん抜けていた。

抜け毛・・・・・

まさかね・・・・?


脱毛で部屋に抜け毛が多い人がいる。


「今日 坊主にする。」

「え?」


抗がん剤?

私の時間が止まった。

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