甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「お前は祖母と暮らしたことあるか?」

「いえ」

「高齢者が家に住むか住まないかで生活環境は随分と変わってくる」

「だからバリアフリーに」

社長はくっと笑い、彼に背を向けた。

「だからわかってないんだ。バリアフリーだけでは安易。彼らの生活を自分の目で確かめたことはあるか?」

「ありません」

彼は、設計を任された家族に会いに行くことも、話を聞くこともしていなかったことに気づいた。

「お前はこの会社のやり方が傲慢だとケチをつけてくれたが、お前こそ傲慢の何物でもない。もっと勉強してこい。仕事はそれからの話だ」

呆然と社長の前で立ち尽くすしかなかった。

どう弁解しても、それは自分の浅はかさと傲慢さでしかなかったから。

********

とても意外な話だった。

私が知っている間宮さんと当時の彼はあまりにもかけ離れすぎていて。

傲慢だなんて言葉、間宮さんには全く当てはまらないんだもの。

「ガツンと暗い穴の中に突き落とされた感じだったよ」

そう言う間宮さんは相変わらず穏やかな表情で優しい目をしていた。

「自分に自信がなくなるって、とても恐ろしいことだよ。何を見ても何を聞いても、自分で判断することが難しくなる。本当にこれでいいのか?って常に自問自答して、結局答えがでないまま疲れ果てるだけ。そんな時期が数か月続いたかな」

「その間はデザインの仕事は?」

「できるはずもなくて、ただぼんやりと机の前で座ってるだけの日々だったよ。情けない話だけど」

私は首を横に振ってうつ向いた。
< 95 / 233 >

この作品をシェア

pagetop