甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
私だってずっとそうだった。

未だに暗い穴から出れないまま、上からこぼれる光を見上げてるだけ。

変わっていく友達を尻目に、少しも変わる努力すらしていないんだから、そんな私の方がずっと情けない。

「暗い穴でもんもんとしてる中で突然ふっと変わりたいって思ったんだ」

顔を上げると、そこに私を見つめる彼の美しい切れ長の目があった。

「建築物やパッケージ、家具、色んなものが全てデザインの上に成り立ってる。デザインなしでは存在しえない。それくらいデザインって僕らが生きている中で大切なものなんだって気づいた。デザインはそれだけで存在してるんじゃなくて、そこに生きてる人間の人生そのものなんだって」

その目はとてもキラキラとしていて、まっすぐで逸らしてしまいそうになる自分の気持ちを必死に堪える。

「自分の人生だけではそんなデザインは生まれない。だから、皆がどんな生活をしていて、どんなものを必要としてて、何を日々考えて生きてるかを知ることから始めようと思い、父の許可をもらってパーソナル・サポートを立ち上げたんだ」

「そうだったんですね……」

車いすの安友さんが「助けて」と私に電話をかけてきた声が耳の奥でこだましていた。

安友さんの家にエレベーターがあることも、全て特注の低めの家具が並んでいたことも、賢いジョンが守っていることも、あの日行かなくちゃ知りえなかったこと。それが自分の知らない人の人生の一部であるってことなんだ。

あの仕事は、間宮さんには、ただ誰かの役に立つためっていうだけじゃない。

もっともっと深い意味があって、それが今の素敵な間宮さんを作ってるんだと思った。
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