図書館
出会い
おれがあいつと出会ったのは、
28歳の秋の頃だった。

パチンコを早く切り上げて、
勝った金で飲みに出かけた。

いつもの汚い、
でも居心地のいいあの店じゃなくて、
ちょっと洒落た居酒屋になんて、
なんでおれは入ったんだろう。

多分、それは運命だったと思っている。

だって、不思議なことってあるけどさ、
全部おれは運命だと思うんだよね。

おれが今こんなところで
こんなことを話しているのも運命なら、
宝くじを当てたやつも、
向かい側から飛び出した車に
頭からぶち当たったやつだって、
みんな運命だと思うんだよね。

じゃなきゃ、なんでおれはこんなところで、
こんなことをしているんだ?
なんでおれはお前じゃないんだ?
おれが今、幸せじゃなくて、
お前が今、幸せなのは、
きっとそういう運命だからだ。

そして、その運命でその日は偶然、
その洒落た居酒屋で一杯飲んだ。

いや、本当は3杯くらい飲んだかも知れない。

ちょっとおれは酔っ払ってた。
とても幸せな気持ちだった。

だからおれは寂しかった。

それは秋だったからかもしれない。
涼しさを感じる季節になると、
寂しくなるのはいつものことだ。

でも、寂しかったおれは、
友だちがいるわけでもないし、
一人で飲んで、そして、席を立った。

そこで、おれの前で会計をしていた二人組み、
その片方があいつだった。
あいつは怒っていた。
一目で怒っていることが見てとれた。

おれが会計を済まして店を出ると、
あいつは一緒にいた男に向かって、
何か、大声で怒鳴っていた。

それは大きな声だったけど、
かすれて、通らない声で、
それは気持ちのこもった声だったけど、
とても悲しく聞こえた。

怒鳴り声が叫びに変わるころ、
おれは少しはなれたところにある
バス停のベンチに腰掛けて、
ゆっくりタバコに火を点けた。

おれは、ただの野次馬だった。
いや、あいつの悲しそうな叫び声が
おれの心を離さなかったから、
おれはそこに座ったのか。
興味本位か哀れみか、
おれはただ、運命的に、
そこでタバコを吸い続けた。



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