身ごもり政略結婚
決まった和菓子を量産するのが目的の和菓子店からはいい返事があるものの、それではここでの経験を生かせない。
新しい商品を生み出すこともなければ、創意工夫も許されず、決まった形をロボットのように作り続けることだけを求められるからだ。
彼は顔をしかめてなぜか小さなため息をつく。
そしてしばらくなにかを考えている様子だったが、顔を上げた。
「平岡さんの娘さんだったんですね」
「父のことをご存じで? 呼んでまいりましょうか?」
父は裏の調理場で仕事をしている。
「大丈夫です。また参ります」
「そう、ですか」
時間がないのかな?と思い、父を呼びに行くのをやめた。
「――ありがとうございました」
『また参ります』と彼は口にしたけれど、来月閉店するのだから、もしかしたら最後になるかもしれない。
今までの感謝を込めて店の外まで出てお見送りをすることにした。
すると彼は、運転手付きの高級車の後部座席に乗り込んで去っていった。