身ごもり政略結婚

返事をした私に布団をかけた大雅さんは、「なにかあったら携帯鳴らして」と優しい言葉を残して部屋を出ていった。


まだ味の染みていない肉豆腐を食べるのかな。

和食が好きだと知ってたくさん料理本も買い込んだのに、当分役に立ちそうにない。


「はー」


妊娠、出産がこんなに大変だとは思ってもいなかった。

産むのは痛そうとか、つらそうというイメージがぼんやりとあるが、まだお腹が大きくもないこの時期から苦しむとは。

横になったものの、ひとりでいると余計に気分が悪くなる。
気持ちが悪いという状態に集中してしまうからなのかも。


別のことで気を紛らわそうと再び色鉛筆を握ったけれど、餡を炊いたときの匂いを思い出してしまいギブアップ。

それからしばらく、吐きたいのに吐けないような、とても不愉快で憂鬱な時間を過ごした。


大雅さんはしばらくすると、オレンジを片手に戻ってきた。


「和菓子のデザイン?」


彼は枕元のスケッチブックを手にして眺めている。
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