身ごもり政略結婚
「はい。でも調理場の匂いを思い出してしまって進まなくて。ごめんなさい」
アルカンシエルのことを聞いたばかりで、私も踏ん張らなくてはと思っているのに、空回り。
「そうか。思い出すだけでもダメなのか」
肩を落とす彼を見て、やっぱりへこむ。
アルカンシエルに千歳の和菓子を売り込む勝負時のはずなのに。
私がこれではダメなのに。
「心配するな。今は千歳の味とあの繊細な技術をわかってもらえればそれでいい。これまでの新作はファイリングしているから、次々とチャレンジしている前向きな姿勢はそれで伝わる」
「ファイリング?」
「言ってなかったか? 新作を買うたび、写真に収めてある。もちろん、いつか千歳と手を組みたいと思っていたからだ」
そうだったんだ。
でも、それほどの期待を背負っているなら、なおさら一刻も早く復帰して戦力にならなくては。
いくら彼に『心配するな』と言われても気持ちは焦るばかりだった。