身ごもり政略結婚

心を通わせられたとは言い難い夫婦だが、こうしてそばにいてもらえるのがうれしくてたまらない。

私は大雅さんからオレンジを受け取り、口に入れた。


「甘ーい」
「よかった」


彼は笑顔で私の手からひと房持っていき、自分もパクッと食べている。


「うん、うまい」


どことなく色気漂う唇が目の前で動いているのを見て、急に鼓動が速度を上げた。

もうあの唇に何度もキスをされたというのに、今さらだけど。


「もし食えそうなら、マスカットもメロンも食べよう」
「私はオレンジで十分です。大雅さんどうぞ」
「結衣のために買ってきたのに?」


彼は目尻を下げてクスクス笑う。

こんなに柔らかい表情の彼を見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。


今までに何度も笑顔を見たが、麻井さんが鉄仮面なんて言葉を使っていたように、たしかにそう思う節があった。

口元は笑っているのに目が笑っていなかったり、単に話にあわせて表情を作っていると感じることがあったり。
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