身ごもり政略結婚
大雅さんが言っていたもう一社も引き下がらず、まだ納入業者が決定していない。
今のところ勝負は五分五分だとか。
「それに、せっかくエール・ダンジュの力を借りられるんだよ。ちょっと洋風に寄せたものも作ってみてもいいと思うな」
必死に明るさを保ち話していたものの、やはり餡の匂いを思い出して気分が悪くなってきた。
「あとね、もうひとつお願いがあって――」
それからもうひとつ父に頼みごとをして電話を切った。
葛まんじゅうは乗り気ではなかったけれど、おそらく春川さんが試してくれると思う。
私がいなくなった店では、土井さんが売り子としてフル活躍してくれているらしいが、和菓子の説明ができる人が店頭にいないのは痛手で、できれば一日でも早く私も復帰したい。
「無理か……」
声色だけなら元気を装える。
でも、このげっそりとやつれた顔で千歳に行ったら、父の卒倒する姿が容易に想像できる。