身ごもり政略結婚

「あのっ、体調が悪くて……立てなくて。赤ちゃんになにかあったらどうしようって」


つながった電話に縋りつくように声を振り絞る。


『えっ!? 今、専務とは同行していないんです。とにかくすぐに参ります』


麻井さんは慌ただしく電話を切った。


「来てくれるんだ……」


本当は大雅さんに来てほしい。

でも、彼のスケジュールは分刻みで埋まっていると聞いている。
そんなわがままは言えない。


私はどうなってもいい。でもこの子は?


立ち上がろうとしても天井が回って、吐き気がひどくなる。

私は動くことをあきらめてそのまま突っ伏していた。


それから三十分。
チャイムが鳴ったのに出られない。
ほんの数メートルの距離が歩けない。

冷や汗がたらたらと流れ、涙まで出てきてしまった。

そこへ麻井さんから電話が入りやっとのことで出ると、電話の向こうから微かに「待たせた」という大雅さんの声が聞こえた、気がした。
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