身ごもり政略結婚

「平岡さんでしょうか?」
「はい、そうです」

「本日はお時間を割いていただきありがとうございます。秘書の麻井(あさい)と申します。料亭『味楽(みらく)』を予約しております。お話はそちらで」


昼食のお誘いだったが、まさかの味楽。

庶民の私でも知っている有名な高級料亭で、あそこに行けば政治家とすれ違うと噂される格式の高い店だ。


父は一張羅のスーツ。
私は一着だけ持っている黒のスーツ。

味楽に行くのに、こんな恰好でよかったの?と思ったけれど、今さらどうにもならない。


私たちは促されるままに車に乗り込んだ。


「どうして千歳に声をかけてくださったんですか?」


私は助手席の麻井さんに思い切って尋ねた。


「そのあたりのお話は、のちほど弊社の専務がくわしくいたします。弊社としましては、千歳さんは大変魅力的な和菓子舗だということだけはお伝えしておきます」


魅力的と言われても、店を畳まなければならないほど傾いているのだから、ピンとこない。
父の腕を評価しているということだろうか。
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