身ごもり政略結婚

麻井さんの話からすると、女性に対して不信感があるはずの大雅さんが、ここまで歩み寄ってくれるのは奇跡のようなことだと思った。

その夜。
彼はベッドで私を抱きしめた。

少し前に昼寝をしたときもそうされて驚いた記憶があるけれど、彼の腕の中にいるとたまらなく安心できる。


「苦しい?」
「いえ。大丈夫です」


本当は『うれしいです』と言いたかったのに、恥ずかしくて言いそびれた。


「キス、していい?」
「えっ?」


唐突にそう聞かれて、目が大きくなる。


「ダメって言っても、するけどね」


彼は優しく微笑んだあと、唇を重ねた。

ただ触れるだけのキスだったが、私の心の中のなにかが大きく動くのを感じる。


結婚してから何度も唇を重ねたけれど、それは全部、子供を授かるための行為の一環だった。
それ以外ではキスをしたことがないのだ。


まるでこれが初めての口づけであるかのように胸が震えた。

少しは愛してもらえているのだろうかと期待が高まる。
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