身ごもり政略結婚
「平岡結衣です。まさかお客さまがエール・ダンジュの……」
「結衣、この方を知っていたのか?」
父は店頭にはめったに顔を出さないので、会ったことがないのだ。
「知っているもなにも、毎月たくさん買ってくださるお客さまです」
「それはありがたい」
父は大げさなほどに恐縮して、もう一度深々と頭を下げた。
「あぁっ、頭を上げてください。実は弊社も和菓子に興味を持っておりまして、千歳さんの商品研究を兼ねて、会議のときのお茶うけに使わせていただいています」
和菓子も取り扱いたいというのは本当なんだ。
詐欺ではないかと疑っていたが、知っている人が現れてこうして話を聞いていると、あの電話は嘘ではなかったのかもしれないと思い始めていた。
「立ち話をすみません。こちらにどうぞ」
須藤さんに勧められて父が上座に座ると、私はその横に腰を下ろした。
須藤さんは座卓を挟んで向こう側、そして斜めうしろに麻井さんが控える。