身ごもり政略結婚
「とんでもない。私たち一介の社員なら、事情をお話すれば予定のキャンセルもさほど難しくないですから。専務はそれができないのでお手伝いをしているだけです。しかも、専務は秘書のひとりやふたりいなくても、自分ですべてこなしてしまう方ですしね」
彼はそう言うけれど、大雅さんはすごく頼りにしているはずだ。
「麻井さんがいないと困るんですよ」
そう伝えると、彼はうれしそうに顔をほころばせた。
麻井さんが部屋から出ていってしばらくすると、ドタバタと足音がしてノックもなしにドアが開いた。
「結衣!」
飛び込んできたのは、肩を大きく揺らして呼吸を繰り返す大雅さん。
私の名前を呼び、ベッドの横にやってくる。
「大雅さん、走ってきてくださったんですね。まだ大丈夫ですよ」
「はー。そうなのか。もう産まれてたらどうしようかと焦った……」
彼はグイッとネクタイを引っ張って緩め、脱力している。