身ごもり政略結婚
それを聞いてホッとしていた。
店の存続のために私が結婚を選んだと父が知ったら苦しむことを、彼も理解しているのだ。
先ほど味楽で政略結婚の話を出さなかったのも、そうした配慮があってのことだろうか。
「結衣さん、エール・ダンジュの洋菓子を食べていただいたことはありますか?」
唐突に話を変えた彼は、ほんの少し口角を上げる。
こうして見ている分にはとてもいい男。
でも、この優しい微笑みの裏で政略結婚なんてとんでもないことを考えているのが信じられない。
「バウムクーヘンやフィナンシェはあります。でもケーキは……」
焼き菓子は決まったデパートに行けば購入できるが、日持ちしないケーキを購入できるのは直営店のみで、いつも行列ができている。
「そうですか。今度本店にいらしていただけませんか? 私のおすすめをお出しします」
「ありがとうございます」
「そのとき、お返事をいただけますか?」