身ごもり政略結婚
「ありがとうございます」
お礼を口にする父はうれしさを隠し切れないといった様子で、顔をほころばせている。
母が亡くなってからこんな笑顔を見せるのは初めてだ。
先週、須藤さんたちと会ってから、父が春川さんにも店の存続の可能性があることを話した。
すると、新婚ほやほやにも関わらず和菓子店への再就職が決まらないがため、職人を辞めることを覚悟していたらしい彼が涙を流して男泣きしているのを見てしまった。
春川さんの前ではいつも厳格な父も、その時ばかりは顔をゆがめて目に涙を浮かべていたのが印象的だった。
そんなふたり見ているうちに、私の気持ちも徐々に固まりつつある。
愛する人と結婚しても、のちにいがみ合って離婚に至ることだってある。
それなら最初から愛がなくてもそれほど問題はないと、必死に自分に言い聞かせて。
ひと通り説明を受けた父は、目を輝かせている。