身ごもり政略結婚

母が亡くなったあと、しばらく和菓子を作れなくなるほど落ち込んでいた父が奮起したのは、私のためだと思っている。

私を一人前に育てようと父なりに必死だったはずだ。

挙式のときもそうだったが、大雅さんとの新しい生活がうまくいっていると安心しているに違いない。


「それで、つわりがひどいタイプみたいで」

『昨日のはそうだったのか。店はなんとかするから気にするな。土井さんもいてくれるし』

「うん。二、三日様子を見させて。春川さんと土井さんにごめんなさいって伝えて」


餡の香りがダメな今、千歳に行くのは難しい。
調理場でなければなんとかなる気もするが、また倒れて迷惑をかけるのもよくないし。

ただ、新作の和菓子のことは気になる。


エール・ダンジュの御曹司である大雅さんと結婚して、経済的にはなにも心配いらなくなった。

だから友人の真紀は私が当然仕事を辞めると思っていたらしいが、千歳の仕事は私にとっては生きがいのようなものでお金の問題とは別。
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