ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
押されたり転んだりしたら……って考えると、この人込みの中に分け入っていく勇気はない。
とりあえず壁づたいに進んで、遠巻きに目を凝らした。
でも……これじゃ、誰が誰だかわからないじゃない。
若干焦りつつ足を進めて――
すると。
みんなの視線が、揃って同じ方向へ注がれていることに気づいた。
何だろう、とひしめく頭越しに目をやった時、音が聞こえた。
始まりは糸のように細く……風のように気まぐれに舞う音色。
それは上へ下へ、波濤のようにうねり。
いつしか稲妻のような激しさへと変化していく――
耳慣れない、でもどこか懐かしいその音楽が、二胡という楽器によるものだとわかったのは、来場者の隙間から覗いた先――壇上の椅子に座る女性が、スポットライトの下でそれを演奏していたからだった。
シンシアだ。
黒地に銀糸で刺しゅうを施したチャイナドレスを着て、長い黒髪を揺らして憑かれた様に弦を弾く。その恍惚とした表情は、この世のものとも思えない妖しい美しさで……。
魅入られたように、自然と足が止まってしまった。