ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
男が、歩調を緩めた。
目的地が近いのかと思っていると、携帯を操作しているらしい。
どこかへ連絡しようとしているのか……。
その姿が、「関係者以外立ち入り禁止」の立て看板を無視して、続く狭い通路へ入っていくのを認めて。
わずかに体温が上昇したような気がした。
今だ。そう決めて、スピードを上げた。
一気に距離を詰める。
人けのないバックヤードの一角で追いつくと……
「ちょっと待ってくれ」声をかけた。
よほど思いがけなかったのか、
びくんっと大きく揺れたその手から携帯が零れ落ち、カチャンと床へ硬質な音を立てた。
「な、なんだよ? いきなりっ!」
「僕を覚えているかい? 以前、会ったことがあるんだけど」
「は? テ、テメエなんか知るかッ!」
罠にかかった野生のサルさながら、キィキィわめく若い男。
随分口は悪いが……色白の肌は女性のようにきめ細かく、目鼻立ちもすっきり整っていて。
育ちの良さ、みたいなものを感じさせる。
一体、何者だろう?
「真杉飛鳥を見張っていたよね?」
僕が口にするなり、変化が現れた。
その表情に明らかな動揺が走り、男の目に疚しさと怯えが交差したんだ。