ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「そうですねえ」マリーさんは頬に手をやった。
「厳しい方だとは思います。ご自分の確固とした信念がおありになって妥協しない。不正は絶対にお許しになりませんし、ご親族の企業でも、容赦なく切るそうです。秘書さんから聞いた話ですと、ご趣味などもなくて、憑りつかれたみたいに仕事一筋、雑談すらしないんですって。ですから、セレモニーでお迎えする時はもう、心臓が口から飛び出そうなほど緊張しましたねえ」
やっぱり、見た目通りってことか。
黒幕が誰にせよ、そもそも総帥が気持ちを変えてくれれば……とも思ったけど。
難しいか。
「彼に意見できるような人って、いないんでしょうか?」
「どうでしょうか……。取締役のほとんどは古参の社員で、総帥を神様みたいに崇めてますからね」
絶対王政時代の国王――ニセ秘書が言ってた通りだ。
「あの……何か、お悩みごとですか?」
「…………」
心配そうに瞬く小さな目を直視できず、視線を逸らしてしまった。
マリーさんは気を使ったのか、お茶を淹れましょうと立ち上がり、キッチンへ入っていく。
「ルイボスティーにいたしましょう。妊婦さんにはこれが一番。クセがなくて、飲みやすいんですよ」
アイランド上、てきぱきポットとカップを準備する彼女の手元を見つめながら――……どうしようもなく、気持ちは沈んでしまう。
すれ違うばかりの気持ちが不安で。
なのに何もできない自分が、腹立たしくて。
イライラが募って、どうしようもなくなる……
「不安ですか? 総帥夫人になるのは」