わがままな美人

 きっと自分の目は、自分が思っている以上に贅沢になってしまったのだ。

 毎日のように顔を合わせる上司が、あんなにも美形だから。
 ちょっと感覚がおかしくなってるのかも。

『──香子? ねえ、ちょっと、聞いてるの?』

「……ごめん、聞いてなかった。疲れてるのよ。仕事から帰ってきたばっかりだし……」

『仕事も大事だろうけど、他にも大事なことはいっぱいあるのよ? このお見合い、真剣に考えてみない? それに……たまには帰ってきなさい』

「……そうね。ちょっと考えてみる」

 帰ってきなさい、という母親の声が、思っているよりもずっと寂しそうだったので、香子は思わず、そんなことを言ってしまった。

「うん、じゃあね。……大丈夫、心配しないで」

 電話を切って、香子はふと思う。
 両親はいくつになったんだっけ?
 妹は旦那さんとうまくいっているのかな?
 そういえば、姪っ子は五歳になったのか。

「……結婚、ねぇ」

 膝の上、開きっぱなしの見合い写真。
 その中にいるのは、写真が苦手なようで、こわばった表情の真面目そうな男性。

 この人と結婚する──。

 ダメね。ちっとも想像できない。
 そもそも結婚する気がないんだもの。誰が目の前に現れたって、この気持ちが変わるはずない。

 香子は見合い写真を封筒に戻し、再び本棚へと押し込む。
 ちゃんと目を通したんだから、もういいでしょ、と言わんばかりに。

「さて、と」

 気持ちを切り替えるようにテレビのリモコンを手に取り、おもしろそうな番組を探す。
 良さそうなものを見つけたらリモコンを置いて、かわりに箸を取り、食べ始める。

 ご飯はすっかり冷めていた。


< 24 / 24 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:13

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

フェイク×ラバー
愛無/著

総文字数/45,348

恋愛(オフィスラブ)41ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
この関係は偽物だから 本物にしちゃいけない それが唯一のルールでしょ? 雀野 美雪 恋愛初心者 だけど ゲームは上級者な24歳 × 狼谷 はじめ 大企業の“王子様” だけど そろそろ長年の片想いに終止符を打たねば と考える29歳 これは彼女が変わるためのお話で 彼が敗北するまでのお話  ・・・  定期的に全体を読み直して、加筆・修正を行っております。  その旨、ご了承いただけたら幸いです。  ・・・
スイート・プロポーズ
  • 書籍化作品
[原題]窓際の花
愛無/著

総文字数/118,533

恋愛(オフィスラブ)294ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
書籍化に伴い、公開を『夜の帳に…』までに変更させていただきます。 急な変更で申し訳なく思いますが ご理解の程をお願い致します。 “告白”された シビアでクールな 上司様に 小宮 円花 26歳 × 夏目 優志 33歳 ありえないでしょう? 上司と恋愛なんて そう、思っていた...
梟に捧げる愛
愛無/著

総文字数/33,959

ファンタジー31ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
貴方はどうして私に構うのかしら? 私はただの梟(チヴェッタ)。 宿り木はいらない。 だから貴方は、私じゃない、別の誰かに構えばいいわ。 その人を愛したのなら、なお良いと思う。 そうしたら私は、ようやく、平穏な日々を取り戻せる。 貴方のことなんて忘れて、飛び立つわ。 私は梟(チヴェッタ)なんだから。 ※他サイトにも掲載しております※

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop