課長、恋しましょう!
彼女がくるりときびすを返した。

男の焦った気配がこっちにまで伝わってくる。

「おっ、おい待てよ!」

「あー、腹ぁ減ったなぁと」

そこで、俺はあからさまに自己主張した。悪いが、ここで外野が見てるぞーと。

男が、彼女の腕を掴む寸前で固まる。おぉっとお若いの、盛ってるかぁなんか知らんが、その手でなにを抑え込むつもりだったんかねぇ。

つまらなん予想はちぃとたるんだ腹に飲み込んで、俺はあえて間抜けに振る舞う。

「おっ、なんだお前ら、痴話喧嘩かあ? んん? 昼間っからあっつぃねー」

実際熱かねぇのは目に見えてるのが、あえて茶化してやるのがオヤジの気遣いってもんよ。

案の定、あんなことがあとだ、男は唾でも吐きそうな態度で彼女から離れ、オフィスへ戻っていった。

「おやおや、ご立腹だぞありゃあ。お前ももちっとフリ方ってもんををぅ!?」

苦笑しつつ振り向いたら、すでに彼女はエレベーターに乗り込み、さっさとドアを閉めようとしてやがった。

「待ておま、うがっ!?」

限界を前に無理はするもんじゃないな。俺はエレベーターに手首を食われた。
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