幼馴染は恋をする
「世の中の大人はね、朝ちゃんみたいに純粋じゃないんだよ。
自分のことは大事にするものだよ。君は純粋に君の出来ることを手伝ってくれようとして言ってくれた。それはよく解ってる、嬉しかったよ。でもね、よその家に軽々しく行くのは止めた方がいい。解るよね?他人の目、口は話のネタになりそうな噂を欲しがってる。
若い女の子がオジサンの部屋に入ったなんてだけで、もうアウトだ。世間とはそんなものだよ?」
「…そんな」
「何もありません、なんて証拠はない。…今こうして歩いている様子だって不自然だ。なんにも関係ない人が勝手に撮影して誰かに送って、話題にされてるかも知れないよ?」
「あ、そんな。…でも、そんなの人の勝手です」
「そうだよ。その、人の自分勝手を甘くみちゃいけないよ。無責任な発言は多いんだから」
「…そんな…何もないのに」
「そうだよ、何もなくてもだ。それが今の世の中だよ」
…。
「じゃあ、こうしてるだけで、柳内さんに迷惑がかかってる…」
噂をまた増やしてしまう…。
「大丈夫だよ。とにかく、気持ちだけもらっておくから、有り難う。帰った方がいい。早く帰りなさい」
…。
「私……私は…」
「じゃあ、ごめん、急いで帰らないと恵和が待ってるから。心細くなって泣いてるかも知れない」
こんな風に言う、これは柳内さんの優しさだ。それに本当に少しでも早く恵和君のところに帰りたいだろう。
「……さようなら」
ごめんなさい、引き止めて。
「うん、気をつけて帰ってね。ごめんね、有り難う、嬉しかったよ」
柳内さん…。
はぁ…希望通りにならなかった。まだ時間がある。どうしようかな、…公園にでも行こうかな。
買い物袋も渡しちゃったし、手ぶらでポツポツと公園に向かった。
「…あ」
「あ、え?…朝」
「フフフ、まさか本当に会うなんて」
「驚かすなよ。なんで、え?どうした」
「せっかく頼んだのに…駄目だったんだ」
…。
「あー、あそこにでも座るか」
「…うん」
公園の低い塀に腰を下ろした。
「強引に行こうとしたけど駄目だった。あ、恵和君が熱を出したんだって。だから何か手伝えるかなって思ったんだけど。色々、…人にどう見られるか気にしないと駄目だって。一緒に歩いてる様子だって不自然にしか見えないって…」
会ったんだな。柳内さんに会ったからあんな連絡をして来たんだ。まあ柳内さん関連だとは思った。それ以外、頼み事なんてして来ないからな。
「ちょっと待ってろよ。直ぐ戻るから」
「え、うん」
道路の向こうに走って行った。
しばらくして両手にカップを持って戻って来た。
「はい、ラテ。お返し、お詫びか」
「え?あ、フフ、うん、有り難う」
「あん時のな。それから……これ、も、あ゙、悪い、ちょっと潰れたか。大分出てるな…」
それは沢山入ったクリームが溢れていた。
「強引に押し込んだから。これは半分こな。うわ、もうベタベタ…大丈夫か?」
「うん、大丈夫。有り難う」
カフェラテを飲んで渡されたクリームだらけのそれを口に頬張った。
「…うわっ、めっちゃクリームだな」
指を舐めた。
「うん、めっちゃクリーム。フフ…」
「……柳内さんの言う通りだよ。朝だってまた噂の対象になる、あっちにも迷惑がかかるし…」
「うん、…そうだね」
それが現実…。