“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
暗い道を、魔石灯の灯りだけで進んでいく。

「うぎゃっ!」

「エリー、どうした?」

「すみません、段差があったようで」

「気を付けろ」

「はい」

ミシェル様は私に手を差し出す。

ちょうど、ポケットの中に飴玉が入れていたので、手のひらにちょこんと置いた。

「なんだ、これは?」

「飴です。小腹が空いた時に食べようと思って、持ち歩いていたんです」

魔石灯の灯りに照らされたミシェル様の表情は、ポカンとしていた。遠慮なく食べてくださいと勧めたら、ミシェル様のめったに変わらない表情が変化する。なんと、肩を震わせて笑い始めたのだ。

「ミシェル様、何か、面白いことがありましたか?」

「エリーが、愉快だからだ。飴を欲していたのではない。危ないから手を握るようにと、差し出したのだ」

「ああ……普通、そうですよね。私、ボケていました」

なんでこんなことをしてしまったのか。ふいに、前世の記憶が甦る。

前世で、私にしょっちゅう飴を寄越せと手を出しだす輩がいたのだ。それが誰だか思い出せないけれど。私はその人物のために、飴を持ち歩いていたのかもしれない。

「すみません、ちょっと小腹が空いていたからかもしれません」

そんな苦しい言い訳をしていたら、想定外の事態となる。ミシェル様は飴の包み紙を開封し、私の口の中へ押し込んでくれた。

「うむっ!」

サクランボ味の飴だった。ミシェル様の指先が私の唇に触れたので、胸が大きく鼓動する。

なんだ、この人は。いつも、不意打ちで私をドキドキさせてくれる。それだけでは終わらず、ミシェル様は私の手を握って歩き始める。
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