“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
会釈をして、商人を送り出す。注文書は懐にしまい、デルフィネ様が注文していた荷物が届いたと、お付きの侍女に知らせておいた。

「商人は帰ってしまったの?」

「ええ。急いでいたようなので」

「そう。……あら、注文書がないわ。あなた、商人から預かっていなかった?」

ドキンと胸が跳ねる。平静を装い、答えた。

「はい、何も」

「失くしてしまったのかしら。まあ、いいわ。いつもは気にするけれど、今日は会食だから、上機嫌で戻ってくるわ。注文書の確認なんて、しないでしょう」

侍女の言葉に、心から安堵する。

「では、お先に──」

そう言いかけた瞬間、背後から声がかかる。

「ねえ、あなた。私が頼んでいた荷物が届いたって、さっきすれ違った商人から聞いたんだけれど」

けだるげな、色っぽい声。振り返らなくても分かる。公爵の奥方、デルフィネ様だ。

なぜ、女主人である彼女が、使用人が行き来する階下へとやってきたのか。

今、もっとも会いたくない人物の登場に、胸が張り裂けそうなほどドクドクと鼓動する。額からも、ぶわりと汗がにじみ出てきた。

掃除メイドからしたら、奥様なんて天上人だ。壁際に寄って、頭を下げておく。

「奥様、お帰りなさいませ。お迎えできず、申し訳なく──」

「いえ、いいのよ」

ルメートル公爵の具合が悪くなったようで、予定を急遽キャンセルして戻ってきたようだ。
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