“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
「荷物、ずっと待っていたのよね」

「申し訳ございません。今、お部屋に運びます」

「ええ、お願いね」

侍女が荷物を持ち上げ、去って行く。あとからデルフィネ様も、続いた。靴の踵がコツコツコツと鳴っている間、息が止まるかと思った。このままいなくなってくれと願ったが、神様は願いを叶えてくれなかった。

「そういえば、注文書は?」

「それは──」

侍女は私を振り返る。デルフィネ様は私をじっと見つめた。

ここで、目を逸らしたら不審に映るだろう。

動揺を悟られないよう、感情を殺してデルフィネ様と侍女を交互に見た。

私は二度、デルフィネ様に姿を見られている。変装しているとはいえ、もしかしたら気づかれる可能性だってあるのだ。

正体についてと、注文書について、両方ともバレたら大変なことになるだろう。

ドキン、ドキンと、胸が嫌な感じに高鳴る。もう、限界だ。この場から逃げ出したくなる。

「荷物は彼女が受け取ったのですが、注文書は商人が渡し忘れたと」

「ふうん」

じっと、デルフィネ様は私を見る。何かを探るような、鋭い目だ。まるで、蛇に睨まれた蛙の気分となる。じわじわ浮かんでくる不審な脂汗に、気づかれませんようにと祈るほかない。
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