“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
どこまでも続く王都の石畳を、夕焼けが朱色に照らしていた。

道行く人々は退勤したり、夕食を食べに行ったり、劇場に出かけたりさまざまだ。この時間が、もっとも人通りが多い。

馬車はまっすぐ王城まで進み、同じ敷地内にある国家錬金術師の塔を目指す。

国王陛下が政治を行い、王族が生活の拠点とする王城は、深い森に囲まれている。これは、外敵を攪乱させる目的があると、歴史の先生に習ったことがあった。

「あ、塔が見えてきました。あれが、錬金術師の塔でしょうか?」

窓の外を覗き込んでいったら、ミシェル様が近くに寄って塔を教えてくれた。

「あれは見張り用の塔だ。その後ろにある、蜂蜜色の塔があるだろう?」

「んん?」

「見えないか?」

「あ、見えました」

目を凝らしたら、やっと見えるくらいの位置に錬金術師の塔はあった。もしかしなくても、ミシェル様はかなり視力がいいほうなのだろう。

……それにしても、ミシェル様との距離が近くて照れる。馬車に乗ったあと、まさかミシェル様が隣に座ってくるとは夢にも思っていなかったのだ。

なんていうか、前から思っていたけれど、ミシェル様はいつもいい匂いがする。香水系の濃くてきついものではなく、ハーバル系の清々しくてさわやかな匂いだ。

こんなに接近するのならば、コロンでも首筋に垂らしておけばよかった。石鹸作りでひと汗かいたあとなので、余計にそう思う。

ミシェル様はすぐに離れたけれど、私の心臓のバクバクはしばらく治まらなかった。

動揺を悟られないよう、話題を振った。
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