新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「あの男、西田は……以前うちの銀行の本店近くにある飲食店で働いていて、礼がテラーとして窓口を担当してた頃、仕事の一環でよく来店していたらしい。しょっちゅう顔を合わせるから、そのうち事務的な会話以外の雑談も交わすようになったのは、自然なことだと思う。けれど、礼本人はまったくそんなつもりはなかったのに、いつの間にか西田は礼が自分に好意を持っているのだと思い込み始めた」



無言で耳を傾ける私の目の前で、彼がひと口コーヒーを飲んだ。

そしてまたマグカップをテーブルに戻し、話を続ける。



「窓口で連絡先を訊ねてきたのが最初で、それを当たり障りなく流しているうち、西田の行動はエスカレートした。店に礼宛で私用の電話がかかってきたり、退勤の時間を狙って外で待ち伏せされたり……困り果てた礼に俺が相談されて、11月のある日、そのときも職員通用口のすくそばで仕事終わりの礼を待ち伏せていた西田へ、俺たちふたりで抗議したんだ」



話しながら当時のことを思い出しているのか、前屈みで両手を組む皐月くんが疲れたようなため息を吐いた。



「あのときも一応顧客ではあるから言葉には気をつけつつ、かなり強めに言ったつもりだった。たぶんそれで、1度は諦めたんだと思う。そのあとすぐ西田は飲食店を辞めて、窓口にも来なくなってたから」

「そうなんだ……」

「まさか、今になって偶然会うとはな……もっと、徹底的にあの男の生活圏から離れた場所に住むべきだった。ごめん」



このタイミングでまた謝罪されるとは思っていなくて、少し驚きながらすぐに否定する。
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