新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
相手の返事を聞く前に、テーブルに残したマグカップの存在も忘れてこの場を去ろうとする。

だけど皐月くんの前を通り過ぎようとしたとき、座ったままの彼が私の左腕を掴んで引き止めた。

反射的に振り向いてしまった私は、今、どんな顔をしているのだろうか。

皐月くんが、ソファからじっと私のことを見上げている。

その表情はやはりどこか苦しげで、腕を掴む力は思いのほか強かった。



「礼、俺は」



話しかけた彼の言葉を、私は「もういいよ」と遮る。



「もう、いいから。私は、大丈夫だから……」



しぼり出した声は震えていた。腕を掴む手の力が緩んで、私はその隙にするりと抜け出す。

もう1度名前を呼ばれても、今度は振り返ったりしなかった。
足早にリビングをあとにし、自分の部屋の中へと逃げ込む。

ドアを閉めてまっすぐベッドに向かい、タオルケットを捲ることもせずうつ伏せで倒れ込んだ。

ズキズキと頭が痛む。次から次へいろんな想いが浮かんでは、行き場をなくして胸に溜まって澱んでいく。

今はただ目を閉じて、何も考えたくなかった。
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