新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
そうして始まった結婚生活は、時折胸に去来する強烈な虚しさに耐えさえすれば、幸せだった。

呼び方が『宮坂』から『礼』へと変わって、彼女も、俺のことを名前で呼んでくれるようになって。

朝起きたら顔が見られるし、仕事から帰ると、はにかんだ表情で出迎えてくれる。

俺の汚い欲望なんて知られなくていい。
この笑顔を守ることができるなら、一生俺は、礼にとって安全な、見せかけの夫でいてみせる。

そんなふうに、ギリギリの理性をなんとか保ちながら、彼女との生活を1年以上続けたある日──事件は、起こった。



『えっと、越智くん、だよね……? あの、これは一体……』



公園の階段から落下し、半日以上眠り続けた礼が次に目を覚ましたとき、彼女の中の7年分の記憶がごっそりと抜け落ちていた。

冗談にしてはタチが悪く、本当だとしてもすぐには飲み込めない。

けれども、俺の中にある醜く汚い部分が『これはチャンスだ』と沸き立った。

社会人になった直後までの記憶しかない彼女は、まだ、菊池を好きになってはいないはずだ。

ならば、もしかすると──このまま夫として彼女を献身的に守っていれば、俺のことを好いてくれる未来もありえなくはないんじゃないか?
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