新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
……いや、違うな。あの日、記憶喪失にならなければ──たぶん彼女は、今頃ここを出て行っていたのだ。

なぜかはわからない。けれどもこれらの荷物をまとめていたときの礼は、きっと何かを思いつめ、この家を出て行くつもりでいた。

彼女が階段から落ちて意識不明になっていた間は本当に生きた心地がしなくて苦しかったし、記憶喪失を知ったときも、俺のせいだと自分を責めたりもした。

だけど……結果的に、礼はここからいなくなることもなく、また自分のもとへと帰ってきてくれる。

7年分の記憶。
素直によろこぶには、あまりにも代償が大きい。

それでも俺は、この好機を利用することを選んだ。

契約結婚を持ちかけたときといい、今回の件といい、つくづく自分は礼にかかわることとなると、ただのエゴイストに成り下がる。

それくらい、欲しいと思うのは──きっともう、俺の人生で、彼女が最初で最後の女性だ。

こんなにも不穏当で後ろ暗い決意を、もしも彼女が知ったら、どう思うだろうか。

きっと恐怖を感じて、すぐに俺のもとから逃げ出すはず。それが、普通の反応だ。

──だから絶対に、この想いは隠し通さなければ。

礼と過ごすこの先の日々を想いながら、俺はひそかに固く心に誓うのだった。
< 201 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop