新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~

「そういえば今日、駅の近くで偶然皐月くんの後輩の子に会ったよ」



夕飯で使った食器類を食洗機にセットしていた礼が、思い出したように言った。

ちょうど食事を終え、俺は食器を一旦シンクに置きながら隣にいる彼女へと視線を向ける。



「ああ……言ってたな。『外出中課長の奥さまに会いました』って」

「えっと、なんて名前だったっけ彼。私一緒に働いたことないんだよねぇ……たしか、クドウくん?」



本当は『須藤』だが、俺は否定することもせず「別に覚えなくていいよ」とあっさり言って蛇口のレバーを動かし、皿に残っていたソースなどの汚れを軽く洗い流した。



「いやいや、そんなわけにもいかないよ。後輩くんの方は私のこと知っててくれたんだし」



苦笑して手を差し出してくれる彼女に食器を渡していきながら、今日の夕方、職場でした会話を思い出す。



『さっき駅前で、越智課長の奥さまにお会いしちゃいました。去年1度見ただけだったけど、俺ちゃんと覚えてましたよ! たしかお名前は礼さんですよね? 奥さま、見た目クールな感じするけど、笑うと急に雰囲気がやわらかくなりますよね。あと、口もとのホクロがなんとも言えず色っぽくて、ついつい目がいっちゃいました~』



水曜日である今日は礼の勤めるカフェの定休日なので、日中買い物にでも出かけていたのだろう。

部下とはいえ他の男の口から思いがけなく妻の名前が出たことに、自分でも意外なほど腹の奥を不穏なもやが覆った。
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