新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
着替えを終えて帰り支度を済ませた私は、逸る気持ちで再びホールに出る。

ふたり用の小さなテーブル席に、皐月くんはいた。

店内にいる他のお客さんは、先ほど私が接客したカップル1組だけだ。

くつろいだ様子でカップを傾けている彼へと、足早に近づく。



「お待たせ、皐月くん」

「礼。お疲れさま」



私に気づいてそう言うと、ちょうど中身のなくなったカップをソーサーに置いた。

いつもは見上げるその涼やかな瞳が、上目遣いにこちらを見る。それだけで、私は鼓動が速まった。



「ありがとう。皐月くんも、お疲れさま。行こっか?」

「ああ。すみません松井さん、ごちそうさまでした」



立ち上がった皐月くんが、他のお客さんに配慮してか抑えた声音でカウンターの中の店長に話しかける。

私も「お先に失礼します」と声をかけたら、彼女はとてもいい笑顔をこちらに向けてくれた。



「うん、お疲れさまー! 旦那さんも、またきてね!」

「はい。ぜひ」



微笑みながらうなずいた皐月くんを満足げに見て、店長がコソッと私に耳打ちする。



「素敵な人ね。絶対逃がしちゃダメよ~?」

「てっ、店長……」



彼に聞こえるんじゃないかと慌てるけれど、どうやらその心配は無用だったらしい。

皐月くんがこちらを見て小首をかしげるのでホッと息をついたら、店長がさらに耳もとでささやいた。
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