新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
勝手な自分に呆れる。きっと、彼と同い年だった“私”なら──こんなふうにモヤモヤすることもなく、ましてや疑問に思うことすら、していなかったかもしれないのに。

肩にかけたトートバッグの持ち手を、ぎゅっと握りしめる。



「……うん。また今度、ぜひきてね」



胸の内にある嫌な感情をすべて飲み込んで、私は彼を見上げながら笑った。

皐月くんも、そんな私に穏やかな笑みを向けてくれている。
だから、自分勝手な疑問を胸の中に留めたこの選択は、正しかったのだ。

自らに言い聞かせながら、何事もなかったように顔を前へと向ける。

けれどもそのあとすぐ、とある場所の前にさしかかった私は、ほとんど反射的に足を止めていた。



「礼?」



隣を歩いていた皐月くんも、同じく立ち止まる。

こちらの視線をたどった彼が、その先にあるものを見て眉を寄せたのがわかった。

私たちが立っているのは、例の、記憶喪失の元となった転落事故の現場である公園の入口だ。

職場であるカフェから自宅へは、ここをつっきって行くと近道らしい。

だけど私は、仕事に復帰した先週から今日まで、1度もこの公園を通ったことがなかった。

なんとなく、こわかったのだ。ある意味自分の人生ががらりと変わる出来事が起こってしまった、この場所に近づくことが。

……だけど、今日は皐月くんと一緒にいる。

ひとりなら足がすくむけれど、彼が一緒なら。
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