新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「ねぇ、皐月くん。ここ……通ってみても、いいかな」



そろりと見上げてうかがうと、皐月くんはレンズの奥の目を細めてやはり微妙な表情だ。

私はなおも言い募る。



「実際に記憶を失くした場所にきてみたら、何か思い出すかもしれないし……ね、お願い、皐月くん」



この公園にこられなかったのは、自分の恐怖心のせいだけじゃない。

皐月くんからも、ここへは近づかないようにと念押しさせていたためだ。

きっと彼は、私が事故現場で何らかのトラウマ等を発動してしまったり、また事故に遭ってしまわないか心配してくれているのだろう。

それに医者の話では、抜け落ちてしまった記憶を穴埋めしようと一気に情報を詰め込みすぎるのは、とても危険らしい。

彼が知る私に関する情報は、日々様子を見ながら、少しずつ少しずつ教えてもらっている状態だ。

だけど、こうやってリスクを避けてばかりいたら……いつまで経っても、私は記憶を取り戻すことができない気がする。

皐月くんは「焦らなくてもいい」と言ってくれたけれど、私は、早く思い出したい。

7年分の記憶を──……彼に関する、思い出を。

真剣な眼差しで、じっと皐月くんのことを見つめる。

すると、しぶしぶといった様子で彼がため息を吐いた。



「……わかった。けど、何か異常があったら、すぐここを離れるからな」

「うん! ありがとう」



パッと顔を明るくしてうなずく。

そんな私に皐月くんは未だ不安そうな表情で「じゃあ、行こう」とつぶやいた。

彼が私の1歩先を進む形で、公園の敷地内へと入っていく。

石畳の道は、きちんと平らに舗装されていて歩きやすい。
わりと新しめの公園のようだ。

少し進むと、真ん中と両端に赤い手すりのある階段が視界に入ってきた。

おそらく……この階段から、私は落ちたのだろう。
少し緊張して、トートバッグを持つ手に力がこもる。
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