新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
それにしても……記憶を取り戻すと意気込んでみたはものの、実際、具体的にはどうすればいいんだろう。

根本的な原因である現場を訪れたとしてもいまいちピンとこないんじゃ、なんだかもうお手上げなような気もする。

うーん。
そう、たとえば、漫画とかドラマでよくあるのは……。



「……同じショックを与えてみるといいとか、言うよね」



無意識につぶやいた瞬間、手すりに触れていなかった右手を掴まれ、驚いて足を止める。

とっさに後ろを振り向くと、同じように階段の途中で立ち止まっていた皐月くんが、険しい表情をしてこちらを見つめていた。

その顔を見た瞬間、すぐに『あ、まずい』と自分の失言に気づく。




「さ──」

「『同じショック』? まさかあのときと同じように、ここから転げ落ちるつもりか?」



穏やかながら怒気を含んだその声に、ビクリと身体が震えた。

とっさに返事ができなかった私の手を掴んだまま、彼が1段上がって隣へと並ぶ。

そうして、私は気がついた。

馬鹿なことを考えた私を、ただ呆れて怒っているのだと思った彼が──とても切なげで、苦しそうな目で自分を見下ろしていることに。



「……すぐそばにいたのに、落ちていく礼に手が届かなくて助けられなかった。あんな思いをするのは、もう、御免だ」



つぶやいた彼の、私の右手を包む大きなその手に力がこもる。

ああ、そうだ。私が階段から足を踏み外してしまった瞬間、皐月くんは同じこの場所にいたのだ。

直接その話に触れられたことはなかったけれど、きっとあの日から彼の中には、やり切れない感情がずっとあったのだろう。
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