新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
見慣れない一戸建ての家を前に立ち、息を吐く。
今の自分は、ひどく緊張しているらしい。嫌に喉が渇く気がして、ゴクンと唾を飲み込む。
斜め後ろに立つ皐月くんは、そんな私の気持ちが整うのをただ黙って待ってくれていた。
だけどきっと、私に向けられた眼差しはとても心配そうな色を湛えている。
それをわかっているから、私はもう迷うことをやめ、覚悟を決めてドアホンのボタンを押した。
スピーカーから、プツッと機械的な音がする。
と思ったら、段差の上にあるドアの向こう側からもバタバタと慌ただしい音が近づいてきた。
ドアホンでの会話をするまでもなく、家主が玄関へ駆け寄ってきているらしい。
間もなく内側からドアが開かれた。
「礼! 越智くん! 久しぶりー!」
そこに立っていた人物の顔は、記憶を失くしている今の自分にとっても、多少の変化はあれど見慣れたもので。
満面の笑みを浮かべて明るく言う彼女につられ、私も思わず微笑んだ。
「……久しぶり、ほのか」
こちらが発した言葉を聞いた彼女──私の高校時代からの親友であるほのかは、うれしそうにまたはにかんだ。